あの頃は…殺す事、
それだけしか知らない。
そのためだけに……
動けた。
それが当たり前で…
信じていたから。
今は悩む。殺す必要が
あるのかどうか。
そして…その迷いは
切れた。たった一言…
被害者が増える。
僕はある人物の顔が
浮かんだ。
まだ、殺す事に抵抗が
あったあの時…。
あの人…我が師は死んだ
…だから、あの
日から迷う事をやめた。
首を見たら頸動脈
を切り、額が見えたら
引き金を引く。
命乞いを無視し、
断末魔を聞き流し、
殺した。
でも、それに疑問を
抱いた。
頭に残る断末魔、
硝煙の臭い、
首を切った時の感触…
降り懸かる血の温かさ…
一つ一つに気分の悪さを
感じていた。
更に、殺した人の親しい
人達の嘆き…叫び…
…今は…互いが殺そうと
刃を向ける。
そして…守りたい…
この身で…この命だけ
で…。
死に逃げてると言われ
たら否定はしない…
自覚してるくらいだ。
だが、まだ死ねない。
ここを脱出することが
出来るまでは。
「……排除する。」
動きを止めた。
ひたすら、一撃に
全てを…。
凍り付く、体中の神経が
一点に集中するような
感覚。
暗殺を主とする者同士
なら、一撃のみで
終わる事が多い。
僅かな気の乱れや緩みが
命取りになる。
だけど、この時…僕は
別の事を考えた。
一撃では殺せない…
だから、一撃で相手の
動きを制限する。
それだけで十分だが…
確実に攻撃を裁き、
一撃与え、退かなければ
ならない。
暗殺者にはまずない概念
で、勿論そんな訓練など
しない。
だから…僕は先手を
仕掛ける…。