《どうしてこんな事になってしまったんだろう…》
後悔していた。
飲みかけのシングルモルトウイスキーのロックを一気に飲み干し、カウンターの奥でグラスを丁寧に拭いているマスターに思わず話し掛けた。
「マスター、時間を巻き戻す事が出来たらいいのにね」
「そうですね…まるっきり時間を巻き戻す事は不可能だとしても…犯してしまった過ちや失敗は事実として残りますが、気持ちと努力次第でいくらでもやり直す事は可能なんじゃないでしょうか」
僕は“ハッ”と何かに気付かされた様に、カウンターに置いてあった携帯を手に取り彼女にメールを送った。
【さっきはごめん。ついカッとなって言い過ぎた、後悔してるよ。大事な話もしなきゃならなかったんだ…ホント悪かった】
3分程待ったが彼女からの返事は返って来なかった。
「マスター、返事来ないよ。やっぱり怒ってんのかな」
「大丈夫、彼女もきっとお客様と同じ気持ちでいると思いますよ」
と言うとくるりと後ろを向き、壁に掛けてある古時計の長針を一回転程逆回しにした。
時間は8時24分になっている。
「ちょっとだけ時間を巻き戻してみました。二人が良い関係に戻る事を願ってますよ」
「マスター、有難う。もう一杯もらおうかな…」
時計の長針が25分を指した頃、店のドアが開き、そこには彼女が“ごめんなさい”という様な表情を満面に浮かべ立っていた。
「ごめんなさい、待った?」
「いや、僕も今しがた来た所だ」
−THE END−