ゴミ捨て場に向かう途中話題に困ったのでこの旅館について色々聞くことにした。
アルバイトだと思っていた彼女は実はこの旅館のオーナーの娘ということが分かった。
ということはきっとお嬢様育ち的なお嬢様なのだろう。
夏休みは毎年旅館の手伝いをしているらしい。
一番印象を受けたのは、同い年の17歳という事実。
そのことをお互い知って話し方が円滑になったのでほっとした。
少しお互いの関係が和らいだので、彼女のほうから話してくれるようになった。
いつもは裏口からゴミを捨てに行くのだが、距離的に玄関の方が近いため横着したらしい。
玄関から出て、もし旅館利用者に見られたら失礼だから本当は禁止されているそうだ。
彼女 『こんな時間にお客様が玄関にいるとは思わなかった』
…まあ、部屋を出たのは11時間半くらいだから無理もない。
俺は苦笑いで彼女に返事をする。
さっきまで静まり返っていた玄関に戻ってくると彼女は『ありがとう』とまた言って旅館に戻ろうとする。
その後ろ姿に急に寂しくなって思わず声をかけた。
俺 『ねえ、ここでアルバイトしちゃだめかな?』
働く彼女をみて『自分がやりたいこと』を無性にみつけたくなったのかもしれない。
彼女は驚いている様子でこっちを見ている。
俺 『俺、今までやりたい事とかなくてただ生きてただけだけど、なんていうか……変わりたいんだ』
自分でも会ったばかりの他人にこんな悩みを暴露するとは思わなかった。
彼女 『なにができるの?』
俺 『え!?』
彼女がいった意味が理解できなかった。
彼女 『今のあんたになにができるの?』
なんて答えたらいいか分からなかったので、
『料理ができる』
と答えた。
彼女 『じゃあ、お父さんに話してみるよ』
『でもいいの?旅行で泊まりに来てるんでしょ?』
そういえば忘れていた。確かに旅行で来ていたのだった。
明日はどうせすぐ帰るだけの予定しかないからそこは大した問題ではなかった。
俺 『旅行はいいんだけど、俺の家ここから車で1時間以上かかるんだった…』
根本的なことを忘れていた。毎日は働かないにしてもこの距離は痛い。
彼女 『じゃあ住み込みで夏休みの間だけ働けば?あたしもそうだし』
旅館ならではの理想的なプランがあった。
彼女 『じゃあとりあえず明日は5時くらいには起きててね』
『働けるかはわからないけどね』