唐突だが、僕はタイム・スリップで過去に行った事がある。僕は、と言っても正確には『僕の前世と思われる人』の事だが、何故そう思われる、のかは今は語らない事にしておこう。
話は僕が17歳の時から始まる。(ここで言う『僕』とは、前世の僕の事だが、敢えて僕という表現を使わせてもらう)
秋の気配が感じられるようになってきた9月のある日、僕は『敬老の日』のプレゼントを買う為、祖母と一緒に繁華街を歩いていた。祖母はふっくらとして温かみがあり、僕が早い時期に父親を亡くし母親が働きに出ていた事もあって、家では小さい頃から僕のお母さん代わりだった。僕は祖母が大好きだった。
ちなみに祖父は既に他界している。愛する夫を亡くした祖母は、孫である僕にありったけの愛情を注いでくれた。
僕は新聞配達で貯めたお金で祖母にストールを買ってあげた。祖母はストールを『ストーブ』と聞き間違えたらしく「これから寒くなるから必要かもしれんけど、私専用のなんていらないよぅ」と“お茶目”に言った。
「お祖母ちゃんストーブじゃなくてストール、肩掛けの事だよ」と言うと「そうかいそうかい、有り難いねぇ」と笑った。
ストールを買ったデパートのレストランで食事をし、店を出て広い交差点に差し掛かった時、一台の軽トラックが猛スピードでこちらに近付いて来るのが分かった。(危ない!)と思い咄嗟に祖母を半ば乱暴に歩道の奥に突き飛ばした瞬間、トラックは僕の目の前に在った。その後はコンマ何秒の世界だろうか、一瞬目の前が真っ暗になり、一旦戻った明るさが段々と薄れて行くのが分かった。