精霊は真実を知っていた。津名は殺している。男子生徒と女子生徒の2人、殺している。分かっていても精霊は助けることが出来なかった。理由は簡単なこと、精霊は召喚されない限り地上に降り立つことは出来ない。見下ろすことは出来てもそこへ行くことは出来ない。
津名が殺した2人は今も行方不明扱いになっている。だが、この照塚美佐代は本当に行方不明になっていた。それが突然帰ってきたのである。精霊は焦った。疋田津名に関しては大変な危険人物としてマークしているのだが、それ以上に照塚美佐代の方が危険だと精霊は思っていた。
「てめえ自分の骨を自分で見たくはないか?」
津名は美佐代に脅しではなく、本気でそう言った。
「おい、ナイフ貸せよ、いいもん見せてやる。」
津名は他の女子生徒に向かってそう言った。すると女子生徒のうちの一人が津名にカッターナイフを手渡した。
「嫌だったら抵抗してみろ。」
津名はカッターナイフをちらつかせながら美佐代にそう言った。
それ以上やるな、精霊はそう叫ぶ。しかし、その声は空しくも地上に届かない。精霊はどうにかして津名を止めたかった。精霊にはどんなに津名が美佐代を殺そうとしても、それはできないと分かっていた。これ以上美佐代に何かすると、災いがこの学校はおろか、かなりの広範囲に降り注ぐ。なんとしてでもそれだけは避けたいと精霊は思っていた。
美佐代はカッターナイフを向けられてもかすかに笑っていた。手が溶けているというのに痛みを感じていないようである。
「バカにしているのか、この俺を。」
津名はそう言うと美佐代の顔面を殴った。美佐代は地面に倒れたが、表情は変えずにこんなことを言った。
「あなたは私をバカにしているの?」
津名は美佐代を無理矢理立ち上がらせて壁にぶつけた。
「てめえは俺たちの遊び道具なんだよ。おもちゃがえらそうにすんじゃねーよ。」
津名はそう言うとカッターナイフを振り上げた。美佐代は全く動じない。