その後先生はかなりの時間をかけて一年の授業の仕方やテスト等について説明した。そうして2時間目の授業は終了した。俺はその時を見計らい怜のところへ行った。
「あっ、かい君。世界史のノグチ先生は優しそうでいい先生だったね。」
「そうだな。あの先生、俺の見た感じこの学園のなかでは『まともな』先生だったな。まぁ、前の松葉ってヤツがあれだったからそう見えただけかもしれないがな。」
俺はいたって冷静にそう答え、まだ野々口先生の評価を下さなかった。怜はすっかり野々口先生「信者」になってしまったらしい。
しばらく怜と話した後、3時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
時刻は10時35分、次の50分間が本日最後の授業となる。チャイムが鳴り終わるとほぼ同時に宮垣先生が入ってきた。
「はい、起立。」
そう言って号令を終えると宮垣先生は出席簿を取り出し、何やら付けだした。あたりが少しざわめく中、宮垣先生は顔を上げた。
「はい、みなさんおはようございます。初めての授業はどうでしたか?」
その問いに生徒達は渋い顔をする。
「ははっ…なんか微妙って感じですね。最初の授業は松葉先生でしたっけ?まあ、授業はあまり楽しいものではありませんからね、受けている方もしている方も。」
最後の言葉に笑いが起きる。確かにそれが教師の本音だろうが…
(でもまあ仕事だからな…)
「では、気を改めて、今日から授業をしていくわけですが、今日は教科書ではなくプリントで授業を行います。」
そう言って宮垣先生は持ってきたB4サイズのプリントを配りだした。
手渡されたプリントにはある文章が書かれていた。しかし、全く見覚えがない。
「この文章はフリードニヒ・ニーチェ著『力への意志』という作品です、はい。とりあえず、自分で読んでみてください。」
俺は目の前のプリントに印刷された文章を読み始める。実に興味深い文章だった。これには、彼の我がものとし、支配し、より以上のものとなり、より強いものとなろうとする意欲、つまり「力への意志」についての考えが書かれていた。深く読めば読むほど彼の世界にのめり込んでしまいそうだ。
彼は最初、「力への意志」には反対の意見を持っていた。しかし、時が流れるにつれ、彼も「力への意志」の肯定者になっていたのだ。