「それは残念」
スレイは肩をすくめてニヤリと笑うと、椅子から立ち上がった。
「マーチン、引き続き奴らの動向に注意を払っていてくれ」
「わかりました」
マーチンは恭しく頭を下げた。
「よし、作戦会議だ!」
スレイはマントを翻しながら、興奮したような表情でクリスタルを握り締めた。
「ふむ…」
茶をすすった老人は白い髭で覆われた口をもぐもぐと動かして、小さく息を吐いた。
「どうしたの?お爺ちゃん」
傍でミルクを飲んでいた少女は不思議そうな顔で、老人を見つめた。
「何でもないよ」
老人はしわだらけの顔を更にしわくちゃにして、少女の頭を静かに撫でた。
―魔力の流れがここにきて一段と強くなってきおった…。
ゆっくりと椅子から立ち上がると、老人は重い足取りで外へ出た。
―力は内から編み出すものだ。クリスタルなどという外からの強大な力を持てば、必ず人間は狂気に走る。
「グリア様…」
老人はポツリと呟いて、どこまでも広がる青空を見つめた。
鳥たちのさえずりが遠くから聞こえてくるものの、姿は見えなかった。