僕と和子と敬太郎 第三話

カルロス伊藤  2010-03-22投稿
閲覧数[291] 良い投票[0] 悪い投票[0]

よく見ると彼女のセーラー服も、下はスカートではなく『もんぺ』だった。周りの家屋も僕の時代の田舎のそれとは微妙に違い、明らかに時代を遡った造りのものが並んでいた。家の板垣には『富國』の下が破かれた貼紙があり、恐らくそれが富國強兵の文字が書かれた貼紙である事を推測した。僕は恐る恐る聞いた。
「ねえ、今平成何年?」
「へいせい…?なんじゃ、へいせいって。今は昭和、昭和20年、1945年じゃ。ようやくアメリカとの戦争が8月に終わってこれからどうなるんか皆不安がっとる、お前どっから来よった、日本人じゃなかろう」
少年が息巻いて答えた。
タイム・スリップした…?僕は直感的にそう思った。
「とにかく怪我させてしもたのは運転してた私のせいじゃけん、手当てさせてくれ、な」
そう彼女に促され、近くにあるという彼女の家に向かった。何故か少年も一緒に付いて来た。この二人は恋人同士なのかな…と直感した。
彼女の家は極めて貧乏という訳でもなく、かと言ってお金持ちでもない、いわゆる中流家庭の感じだった。居間に通され、傷の手当てを受けながら、僕は次第に押し寄せてきた不安から、色んな事を彼等に質問したくなったが、先に聞いてきたのは彼女の方だった。
「ねえ、名前なんて言うん?」
「僕?…健二、佐藤健二」
「そっか、健ちゃんやな。で、どっから来たん」
僕は(君達の知らないずっと先の時代から来た)と言った所でどうせ信じてもらえる訳ないと思い。
「と、東京」と取り敢えず答えた。
「そうね!東京から来よったん。松山までは遠かったやろ」
「(松山…四国の松山の事か?)そ、そうなんだ。空襲で両親と死に別れて、松山に居る親戚を訪ねて来たんだけど、もう既にどこかに引っ越してしまったらしいんだ」
「そう、大変やね…私の名前は近藤和子、で、こっちが(と彼を指差し)柴崎敬太郎、幼なじみなんよ」
僕は一瞬(どこかで聞いた事のある名前だな)と思ったが、それが僕の祖母と祖父の名前だと気付くには一秒も必要なかった。



投票

良い投票 悪い投票

感想投稿



感想


「 カルロス伊藤 」さんの小説

もっと見る

ノンジャンルの新着小説

もっと見る

[PR]


▲ページトップ