それは10年以上も前のこと――
「うわぁーんっ!」
夕暮れの公園。
手をひかれ、泣きながら歩いているのは当時4歳のうち。黙ってうちの手をひくのは同じく当時4歳の猛。
「そうや!はーちゃん!!僕がおんぶしてあげる!」
ずっと黙っていた猛が背中を向ける。
「でも…はのん、重くない?」
恐る恐る聞くと、返ってきたのはいつもの笑顔
「大丈夫!任せて!!僕、男の子やもん!」
タケのお母さんは亡くなって、タケのお父さんがうちの家、すみれ園にタケを連れてきた。すみれ園は親のいない子のために、“先生”と呼ばれるうちのお父さんが造った家。うちより年下の子は何人かいたけど、同じ歳の子はタケが初めてで、タケとは誰よりもほんまの兄弟である気がした。
「先生が言っとった。“痛い時ほど笑え”って」
「うん…ぐすっ…しってる」
“笑え”はお父さんの口癖やもん
「だからね、僕はいっぱい笑うねん。それで、はーちゃんが笑わん時は笑わせたる。」
「…ぐす…どうやっ…て?」
「たとえば…たける、はっしゃします!」
うちをおぶったまま走り出すタケ。
その背中でうちはキャーキャー言いながら次第に笑顔になっていった。