「“先生”はおらんの?」
「“先生”は遠くへ行っちゃってん」
呼び名は違っても、うちのお父さんはタケにとっても父親。勝手にそう思ってた。でも、うちのお父さんが死んだ時、タケは一度も泣かなかった。
本当の父親じゃないから悲しくないの?
なんか、裏切られたみたいな気持ちがした。兄弟だと思ってたのに。
だからその夜、寝つけない晴香をなだめるタケを見つけた時、うちはバカだったと思った。
「なんで?なんで遠くに行ったん?」
「…なんで…やろなあ」
タケの目に滲む涙。
「タケちゃん?」
「ああ、ごめん。ほら、はるかもそろそろ寝な。」
タケに抱きあげられたまま目を閉じる晴香。
そっか、
タケはずっと泣けなかったんや。この家にはまだ独りじゃ生きれない子どもがたくさんいる。なのに、うちもお母さんも悲しみに暮れるばっかりで、そんな中、タケだけが支えてくれてたんや。
“大丈夫”
“任せて”
このタケの口癖がどれだけうちを支えてくれていたのか、やっと気付けた気がした