敬太郎の家は町の商店街にある小さな金物屋だった。店先から中に入り、小上がりになってる障子戸を開けるとすぐ居間になっていた。そこにはいかにも頑固そうなおやじと、気立ての良さそうなおばさんが座ってお茶を飲んでいた。
「お帰りなさい、あら和ちゃんも一緒?」
「おばさん、今晩は。ちょっとお邪魔していいですか?」
「どうぞどうぞ、あら、そっちの子…見慣れない顔だけどお友達?」
「はい。健二君って言うんですけど、彼の事でおじさんおばさんにちょっと相談が…」
本来なら息子である敬太郎が話すべきなのに、事のいきさつを彼女が全部話してくれた。彼女は性格的に“お節介焼き”の節があるのだろう。
僕は絶対断られるんだろうな…と思いながらおじさんとおばさんの顔色を窺っていたが、返事は意外なものだった。
「そうね、そりゃ大変やったのう。ええよええよ、こんな家でいいんやったら暫く泊まって行き。な、お父さん」
「そうじゃな。今はこれから日本を建て直す為に国民がひとつになって共に助け合う時期じゃ。遠慮せんとここにおれ。ただし色々店の事も手伝ってもらうけんな」
僕はちょっと拍子抜けした。見ず知らずの得体の知れない人間を家に上げる事は勿論、暫く住まわせるなんて行為は僕の時代ではとても考えられない事だ。それこそ何か『事』が起きたら、家に上げた方にも非難の声が上がるだろう。これがこの時代の人間の気質なのか。僕の時代の日本人達が忘れ、失ってしまった何かを、僕は知らされたような気がして、何だかとても温かい気持ちになった。