ミルトニア番外編

萩原実衣  2010-03-25投稿
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坂を上った所にあるアンティークな喫茶店には、白髪で蝶ネクタイをした紳士的な装いのマスターがいる。
マスターは、朝 喫茶店に来るとまず、通りに面した大きな窓ガラスの掃除を始める。

濡れた新聞紙でキレイに磨き上げてから、拭き取る。

その窓からは、日々折々の景色が見られる。
そう…。

一枚の絵画のようだ。

次にくまなく店内を掃除する。

掃除が終わるといよいよ本業の珈琲の準備。

マスターは、何十種類の珈琲をその人の好みに合わせてブレンドしてくれる。

なんとも 贅沢な 喫茶店だ。

もちろん!ケーキも自家製。

とにかく、マスターは、凝り性である。

それが、多くのファンを引き寄せるのだろう。

いや…

違う。

マスターの 淡々としたやさしさに引き込まれていくのだろう。

何人もの出会い、別れ、誕生、裏切り、そして愛情を見てきた。

決して、変わることなく、変えることなく。

マスターが開店間近に必ずやることがある。

あの窓の下に見える花壇の手入れである。

花は、裏切らない。
ただ…その人を幸せにするためだけかのように咲く。

マスターの細かな心遣いである。

そして、秋になるとその花は、咲き誇る。
満開のその花の景色を見ながら語りあった二人は、必ず結ばれるという神話が生まれている。

マスターは、秋になると必ずこの花を満開にさせる。

そう…。マスターが愛した女(ひと)が…
生涯たった一度だけ愛された女(ひと)。
その人が好きだった花を今も咲き誇らせる。

その花は…
『ミルトニア』

花言葉は…愛の訪れ

(あっ、そろそろバイトに戻らないと… )
「マスター!ごちそうさま。バイト戻ります!」
「あぁ、由宇君。またゆっくりおいで。」

そして、マスターは珈琲の豆を引き始めた。

今日も ミルトニアの咲き誇るあの席は…愛の訪れを待っている。

(終り)



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