その日、遥香は寒さで目を覚ました。
時刻は午前7時。
いつもならパートに行く母が先に起きるため、暖房をつけていってくれるのだが…
(そうだ、昨日から秋子叔母さんの家に行ってるんだった…)
寒さで寝ぼけていた頭が回転しはじめる。
なんでも秋子叔母さんの息子さんが危篤状態らしく、深夜にも関わらず慌てて出掛けていったのだ。
普段はマイペースな母だが昨日の慌て様といったら…
しぶしぶ布団から起き上がると、奥の居間と通じる襖が少し開いているのが目に入った。
「どうりで寒いわけだ…さっさと着替えて行くか…」
今日から近くの大学病院で実習が始まる。
恐怖の看護実習だ。
先輩から聞いた噂によると、「眼鏡で小太りのお局看護師には要注意」とのこと。なにが要注意なのかは聞けなかったが…
身支度を整え、昨日用意しておいた大学指定の白衣を鞄に押し込んだ。
母は今日には帰ってくるだろうか…
遥香は戸締まりを確認して小さなアパートをあとにした。