第五話 杉本冬馬
僕の名前は、杉本冬馬。二年前に大学を卒業し、警視庁に入籍した。一応エリートって肩書きで通っているが、今のところあまり大きな事件は起きてない。
小さな事件は多く解決出来たが、イマイチ僕の想像するドラマみたいな事件は起きなかった。そう……例えば六年前の事件のような………って回想にふけてもしょうがないね。そうそう、僕は今何をやっているかと言うとね………事務処理です。はい、僕は完全に落ち込んでいます。警察官になろうと思った一番の理由は刑事ドラマに憬れてなんだけど、現実はそう甘くなかったみたいだね。
「おい杉本!!事件だ。一緒にこい」
先輩の百木刑事が僕の事を呼んだ。先輩は刑事になって十五年のベテランで、貧乏髭が特徴だ。いつも運が悪いと先輩は愚痴の様に言っている。その髭をそれば良いのにと思うが、新米なので、言わない事にしている。
それはそうと刑事になりたての僕なら呼ばれれば犬の様に尻尾を振って先輩について行っただろう。しかし、現実を知ってしまった僕は尻尾を全く降らずに
「は〜あ〜い」
と、嫌々な返事をしてボールペンをしまった。どうせひっくりの被害にあった人に聞き込みとかでしょ?と、投げやりに立ち上がる。はぁ〜どうせなら今一番有名な知立銃殺事件が良いなぁと、思っていたら
「知立銃殺事件の現場に行くぞ!まだ例の少女は捕まってなく、捜査員を増員するみたいだ」
なんと、先輩が行く場所は僕が願っていた事件現場という。当然僕は嬉しさのあまりに
「えっ!?あっあのじっ事件を捜査出来るんですか?」
あまりの嬉しさに思いっきり噛んでしまった。そんな僕に先輩は笑いながら
「お前はこんな事件を待っていたのか?」
と、聞いてきたので僕は迷わず
「はい!」
と、なぜか敬礼をして答えてしまった。そんな僕のわかりきった態度を見て再度先輩はクスリと笑ったが、すぐに現場モードのシリアスな顔になった。
「杉本、この事件には何故か上はいつも以上に本腰を入れているから気を引き締めろ」
と、僕の今までの浮ついた気持ちを吹き飛ばすかのように真剣な目つきで僕のことを見た。
僕は気を引き締めたと、いう意味を込めてもう一度「ハイ!」と答えた。