「親父は多分、過去の過ちだとか失敗への後悔をずっと引きずってんねん」
ある時、珍しく達也が俺に親父の話をしてくれた。
「よくさあ、失敗とかしても後できっと“やり直せる”って言う人、おるやろ?あんなん嘘やと俺は思う。どんなに努力したって、過去は消えへん。いつまでも残るんや。死んでも消えへん。だから、俺は絶対あんな奴みたいにはならへん。未来の自分が、でかい後悔を背負って生きていくことがないように、俺は絶対悪いことはせん。自分のためにな。……俺は、親父を好きだと思ったことはねえよ。でも、嫌いになったこともない。どうせなら全部憎んで恨んで、あんな人間が父親なんて事実、消してやりたい。でもな、全てが嫌なわけじゃないねん。全部が嫌なら、楽やったのにな。…別れたとはいえ、あんな奴でも一度は母さんが惚れた男なんだよ。やっぱり嫌いにはなれない。それに、あんな親父だったおかげで母さんは再婚して、それで慶太郎がおんねん。そう思うとあんなんでも、感謝しないとな」
そう言って笑う達也。
あいつにとっての一番の自慢は、ドラムの腕なんかじゃない。
父親の違う、弟の慶太郎やった。