漆黒の闇の中に、一瞬だけ鈍い光が射して、彼女は初めて自分が暗闇にいる事を認識した。
「瞳孔が反応しました」
「早いな」
どこからともなく声がする。最初のは男、次は女。声の様子からするといずれも若い。おそらくは20代前後だろう。だが彼女の意識はどこか朦朧としていて遠く、まるで現実感がない。
「もう１体の方はどうだ」
女が男に問う。言葉は堅く声音にも抑揚は無いが、涼しやかによく通る声だった。威圧感すら漂っている。
「こちらは反応ありません」
男の報告―明らかに彼は部下だ―に女はため息をつく。
「やはり２体は無理か…万一の場合に備えてスペアを用意しておきたかったのだが」
男が慰めるように言った。
「仕方ありません。これだけのデータを一度に入れられるのには膨大な容量の‘器’が必要です。新たなものを造るには時間がもはやありません」
「…そうだな」
女はそれきり黙った。
―この人達は、誰なのだろう。自分は夢を見ているのだろうか。
それまで男女二人のやりとりを黙って聞いていた彼女は、試しに右手に力をこめてみた。
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