もう何年待つだろう。
あまりにも広く、何もなく、ただ白いこの場所は、寒さとはこんなものかと思わせる。
いや、何もなくはない。美しい悪魔が一体、吊られている。
だが、それはあまりにも美し過ぎて、寒さを強調するだけだった。
来訪者も時にはある。英雄を殺した者や、騙した者たち。
だが一番面白かったのは、神になった者だった。
彼はその美声で人々に希望と愛と嫉妬と絶望を与えた。その知識で賢者たちを従えた。
しかしその声帯は奪われ、故に知識も出せず、ただひたすらに荊の冠を大事にしていた。
それがあまりにも滑稽で、私はそれを思い出す度に憐れみを覚える。
なんということだろう。彼はこんな悪魔にも、語らずして愛の片鱗を伝えたもうたのだ。
だが、それでも彼は罪人。しかもこんな所に来る程の。
仕方がない。本来ならばここが、こここそが最上であったのだから。
もう数えることも出来ない昔、悪魔が世界を作り、それを神が奪った時、なにもかもが逆転したのだ。
神の理念が正となり、我々の、生きることにただ貪欲であるということが邪となった。
そして、美し過ぎる悪魔はその全てを否定され、ここで吊るされることになった。
私はいわば管理者といったところ。
もう何年待つだろう。
悪魔は今日もただ吊るされて、かつての栄華を夢想している。