12.
二人は無言だった。
車中は険悪ムード。
ここに着くまで何もかもがついていなかった。
昼過ぎ、馬鹿温泉街に着き昼食を軽く済ませ14時を少し回った頃に阿歩屋旅館にチェックインして部屋に通されたのだが…
とても高級な部屋とは思えない。
確かに置いてある家具や壺や掛け軸などは高価な物ばかりのようだ。
しかし入口も壁も床も物置としか思えない(実際、この部屋は昨日まで物置だった。大賀根 望代が片付けさせ部屋のように変えたのだ)
隠しカメラで二人の様子を見ていた大賀根 望代は大笑いしていた。
立ち尽くしたままの二人の部屋に仲居が入って来た。
仲居「どうされました?お二人とも立ったままで」
徹「あの…」
仲居「はい。どうかされましたか?」
徹「この部屋は、本当に高級な部屋ですか?」
仲居「はい!さようでございます。このお部屋は大変、人気がございまして、いつも予約でイッパイですよ。お客様は本当に運がよろしゅうございます。予約されずに、このお部屋にお泊まりする事が出来るのですから。それと「あまり人目に付かない良い部屋を」とご希望を伺っておりますが?」
仲居は望代に言われた通りに接客した。
徹「確かに、そう言いました」
仲居「この部屋は、まさに、その部屋です。まだ、なにか?」
徹「いや、大丈夫。大丈夫。有り難う。」
仲居は、お茶の用意をして部屋から出て行った。
女性は朝から立っていた。
良い天気だと言うのに傘を大事そうに抱え立っていた。
もう、お昼近い
昨日、突然、 丈 から傘を渡された女性だ。
女性は 丈 を待っていた。
待っていた、と言っても約束をした訳じゃない。
待っていても 丈 に必ず会えるとは限らないのだ。