しかし女性は 丈 を待っていた。
この様子だと夜まででも立っているだろう。
女性の想いが強かったからなのか運がイイのか 丈 が女性の横を通り過ぎた。
女性は 丈 の顔や特徴などは殆ど分かっていなかったが通り過ぎた 丈 の腕を掴んだ。
丈 はビックリして振り返った。
女性「こんにちは。昨日は有り難うございました。」
丈「こ、こんにちは…昨日?」
女性「はい。この傘の事です。」
女性は 丈 に傘を見せた。
丈「ああっ!」
丈 は少し照れた感じで笑った。
女性「あの、この傘…いただけませんかか?」
丈「こんな傘で良ければ…どうぞ。でも、アナタは、それをわざわざ言う為に、ここに?」
女性「はい。そうですけどダメでしたか?」
丈「いや、ダメじゃないけど…もう、お昼ですね。もし宜しければ一緒にランチでも食べませんか?」
女性「うん…でも…」
丈「ずっと待たせたお詫びに奢りますよ。」
丈 は微笑みながら言った。
女性「本当?でも…」
女性は喜んでいたが半分、困惑していた。
丈 は女性の手を取り強引に歩き始めた。
女性は戸惑っていたが直ぐに嬉しそうにしていた。
丈 は望代にグランドピアノホテルで食事をするように強く言われていたので食事をする為にグランドピアノホテルに行く途中だった。
だが女性と一緒に行く訳には行かないので何回か一人で食事した事があるレストラン「アンブレラ」に入った。
丈 は席に着くと直ぐにランチを2つ注文した。
お昼時は、どこも混んでいるのだが、このレストランは少し隠れた場所にあるので穴場の店なのだ。
しかし値段は他と比べると高い。
その分、味は保証付きだ。
丈「よく俺が分かりましたね。」
女性「私にも分かりませんけど…気が付いたら腕を掴んでいました。」
丈「いつから、あの場所に?」
女性「朝からです。」
丈「朝から!?それは、だいぶ待たせてしまいましたね」
女性「気にしないで下さい。私が勝手にした事ですから。あっ、申し遅れました。私は伊井 香 (イイ カオリ)と言います。」
つづく