時が過ぎるのを早く感じるのは、僕が居た時代もこの時代も変わりは無い様で、もうすぐこの時代に来てから一年という歳月が経とうとしていた。
店や家事の手伝いをしながら、昔からこの家に住んでるかの様に毎日を過ごした。何よりおじさんおばさんが僕の事を何の疑いもなく我が息子の様に可愛がってくれた。考えてみれば僕のひいお祖父ちゃんひいお祖母ちゃんに当たる人だ、血が繋がってるのだからそう感じられるのも当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。
敬太郎と和子とも、よく三人で遊んだり、時には真面目な話(今後の日本はどうなるか等)で熱く語り合ったりもした。このままこの時代で生きて行くのもいいかな…なんても思い始めた。
ある日、道でバッタリ和子と会い、冷たいお茶でも飲んで行きな、と誘われ和子の家に行った。ふと考えると、いつも三人で集まってたので、彼女と二人きりになるのは初めてだった。
彼女は南国育ちのわりには色白で、少しポチャッとした感じの見た目だ。顔は美人…という訳ではないが、誰からも好かれそうな『愛らしい』顔をしていた。僕が彼女にあまり女性として興味を持てないのは、恐らく敬太郎が彼女を好いている事を知ってるからと、血が繋がってる僕のお祖母ちゃんだからだろう。
居間で話をしていると、
「健ちゃん、私な、歌作っとるんよ。こないだの戦争では沢山の男の人が戦地に赴いて、若い命を失ったやろ。そんな彼等に捧げる歌を作っとる」
「へえー、凄いな和ちゃん」
「戦争は二度としてはいかん。あんな悲惨な歴史はもうこれで終わりにせんと」
(でも和ちゃん、僕が居た時代になっても、その悲惨な歴史は繰り返されているんだよ)と心の中で僕は呟いた。
「聴かせてくれよ」
「まだ完成しとらん、歌詞を書き始めたばかりや」
「どんな感じ?」
「出だしだけやけど、読んでみる?」
「うん」
「ちょっと待ってな」
と言うと彼女は一枚の藁半紙を持って来た。そこにはこんな歌詞が書かれていた。
未だ見ぬ夢も國の為
忘れて遥か遠い地へ
愛しき人を偲ぶれど
命を賭して護りたる