その朝

ゆめひ  2006-08-22投稿
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何も変わらない朝が
予告もなく訪れる。
窓から急に射した陽の光が眩しすぎた。
しかし、全身を暖かく包まれた心地よさに容赦なく眠気が襲う。
気がつくと30分程寝てしまっていたのか、テレビでは朝のニュースが騒々しく流れていく。

布団から這い出て、洗面所に着くとハブラシが1つ。昨日まであったはずのもうひとつのソレはもう何処にもなく、毛先の広がったハブラシと小汚い顔が薄汚れた鏡に反射される。
それに見あきれたところでリビングへ行くと、いるはずの人はいない。
牛乳を飲もうとコップを出し、牛乳を注ぐ。気がつくと二人分。
なぜか二人分のコップがそこにあり、牛乳で満たされていた。

いつもと違う雰囲気にようやく気がつく。一気に目が覚める。
寝室、トイレ、浴室、キッチン。何処を探してもアナタはいない…。
コップだけの存在になってしまったアナタは私の身体を潤した。身体は貪欲に水分を吸収した。悲しかった。

ただ一枚の置き手紙とコップと香水のわずかな香りを残していなくなってしまった。
香水の香りがアナタの存在感を余計に強調していた…。
一枚の置き手紙にはただ一言だけ。
“ありがとう。”
とキレイなアナタの字で書いてあった。
私は唐突な別れへの不安と恐怖、悲しさやたくさんの感情がまざった涙を流した。涙が太陽の光を反射して部屋は白い光で溢れた。

その涙はアナタに流した最初で最後のキレイな涙。


おしまい。

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