“プルルルル…”
峠昭彦は電話の呼び出し音に、夢の世界から引き戻された。
「…はい、…峠です。
村岡さん? こんな時間(昼間)にお電話なんて、どうしたんですか?」
『あ、寝てるとこ済まなかったな昭彦。 今度のライブの件なんだけど、ちょいと雑誌の取材に応じてくれねぇか?』
「…お話が見えないんですけど、村さん」
『いや、何、今度〈サウンドライフ〉って月刊誌でアマチュアバンドの特集も組む事になってね。
お前らの事イチオシって売り込んじまったのさ』
「はぁ、……(眠い…)」
水商売の峠昭彦にとり、昼間というのは真夜中に相当するものである。
「…と言う話が突然舞い込んで来た訳です、ウチに」
「昭彦さん、ここの皆さんとプロデビューするんですかぁ?」
「いや、ノリマキちゃん、違うみてー。
取材だけだろ?昭彦よ」
石島康介の言葉にいち早く反応した品川恵利花。
「あはははっ!ノリマキ(くのりまき、の事)だって〜、何か可愛いね♪」
「わたし、海苔巻作るの得意ですよ〜?」
「ヒナ、食べるの得意ーっ」
「君たち、…それ、会話になってないぞ?…」
平和だなァ…、と呆れながら俺、倉沢諒司はそのちぐはぐな会話に参加していった。
次回のライブ…と言っても仕事やバイト、それに学校のある俺たちに、ソロなんて出来っこない。
ま、クワトロの奴らとジョイント(今で言うコラボ)になるのがお決まりのパターンだ。
クワトロってのは、かつて石島康介がリーダーをつとめていたバンドで、いわゆる『お笑いパンク系』の連中だ。
演奏の実力は、〈天才〉の康介に支えられていた、と言えば想像がつくはず。
そんな訳で、奴らの本分は関西ノリのベタなトークにあると言っても過言ではない。
一応、……バンドなんだけど。