第五次恒星間大戦に置いて人類総会に協力した航宙狩猟民族が、一定の独立を獲得する事を認められたのはある意味必然であった。
そんな彼等の中で広がりつつあったのが、銀河の中心(中央域ではない)にこそ全ての真理があり、そこに到達する事を激しく求める合一思想であった。
それは航宙狩猟民族独自の宗教と呼んで良かった。
彼等の大勢が銀河中心渦へ向かって進出を試みたが、その殆どは様々な困難や妨害に遭って挫折もしくは破綻と言う結果に終わった。
そこでより柔軟に中心渦を直撃するのではなく、その外縁当たりにさしあたっての根拠地を作り、言わば山登りのキャンプ・ベースとして頂上にたどり着くのに必要な体力と技術を蓄えようとする迂回合一派が台頭した。
彼等は人類総会の黙認の下、独自に星間軌道をこじ開けて銀河の中へ中へと突き進み―やがて有人化が可能な豊かな恒星系群を発見した。
実は既にそこには先客がいたのだが、それまでの大戦の避難民が主流だったらしく、迂回合一派の船団がやって来た時には自給自足の牧歌的な共同体を営んでいた。
大きな衝突も無いままにこの一帯を接収した航宙狩猟民族達は、首都とすべき星系をラケダイモンと名付け、新たな国家を建設した。
銀河元号一八七三年・共和国宙邦《グルン》の誕生である。
共和国宙邦は航宙狩猟民族の伝統を引き継いだ特異な制度・文化を保っていた。
一五歳以上の全ての男子(後には女子も)に兵役を課す星民皆兵制を初め、旗人と呼ばれる軍事貴族が国家を指導する一種の軍国主義が採用されていた。
初期の星民はラケダイモン星系群にたどり着いた船団の乗組員を中心とした一八0万人。
それまでこの地にいた原住民は周辺民として緩やかな統治に服し、やがて少しずつ共和国の正規の星民へと吸収されて行く事になる。
共和国宙邦は引き続き銀河中心渦への挑戦を旗印に掲げながら、自前の星間軌道を守るため機動宙母を建造し、強大な軍備を作り上げ、更に八つの長距離産業船団まで編成し、銀河中に交易と生産の手を広め、経済的にも屈指の勢力にのしあがって行く。
そして星間軌道公社と激しく対立し、三次及ぶ軍事衝突《公・共弓矢》を引き起こすまでに強大化を果たし、中央域文明圏も無視できえぬ存在になるのだった。