梅の花の香りが強まった。
結衣子は、古風な造りの喫茶店で休憩をとることにした。
如何に、自宅の中に頭痛の種が山積みであろうと、日々の多忙は、拍車をかけていく一方で、それは、感謝すべきことなのだと自分に言い聞かせていたが、体力的な疲れには勝てなかった。
若干、カフェイン中毒に近いような多量の珈琲の飲み方で睡眠不足を誤魔化してきた。
ぬるめの珈琲を口に運ぶ時は、一服の清涼剤として、はるか昔の小さな恋人に想いを走らせて疲れた心を癒した。
大量のミルクで、味と胃の負担を和らげる毎日だったが、回想に浸る【幸せ】を密かに楽しんでいた。
中でも、ずいぶん怖がりだった小さな恋人を思い出すと、砂糖菓子を口に入れた時のような幸せ感に包まれた。
虫が苦手で、必死に虫から逃げたがる【彼】の弱ささえ、わかるような気がしていとおしかった。
実は結衣子は、そんな【彼】の為に、たった一度だけ闘っているのだった。
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