チンゲンサイ。<33>

麻呂  2010-03-30投稿
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『お客さん。

そこのラーメン屋は、遅くまでやってるから、

僕らの仲間内でも、ファンが結構いるんですよ。

いやぁ、こんな時間に親子で行かれるなんて、なかなか粋じゃないですか。』



饒舌な、そのタクシーの運転手は、


店に着くまでの間、ほぼ1人で話していた。


普段は無口で口下手な俺にとって、少々、わずらわしく感じたが、


ガラの悪い若者達に絡まれ、疲れ切っていたのと、


ユウの素直な心を、久しぶりに見れた事もあり、


今夜だけは、そんな小さな事にこだわるのは、よそうと思った。


店の前でタクシーを降りた俺達は、店内に入ると、


この時間帯からの予想に反し、数人の客が店内にいる事に少し安心してから適当に席に着き、


早速、ラーメンを注文する事にした。



『ユウ。ここの“にんにくもりもりラーメン”が美味いんだ。

別売りの“半熟煮玉子”を上に乗っけてもらう事も出来るんだぞ。』



『うん。俺もそれでいいや。』



俺が、よくここのラーメン屋に行く事を、ユウは当然知らないだろう。



『ギョーザも頼むか?!』



『‥‥うん。』



家と会社を往復するだけで毎日クタクタで、


家族サービスをする事もなく、休日はただ爆睡するのみだったからな。



『山田さん。

珍しいじゃないですか、こんな時間に。
そちらは息子さんですか?!』



湯切りの手つきも鮮やかに、店主が俺に話し掛ける。



『はい。急に、ここのラーメンが食べたくなったもので。

息子を誘って来たんです。』



『あら、そうでしたか。

お父さんに似て、男前だねぇ!!』



親子揃って、顔が腫れるほど殴られていたはずなのに、男前とは。


社交辞令だと分かっていたが、


思わず、ユウと顔を見合わせ笑ってしまった。


それほど広くはない店内には数人の客。

昼間は、いつも店主の奥さんが店を手伝っているのだが、


今日は姿が見えず、店主は、アルバイトと思われる若い男性と2人で店内業務をこなしていた。

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