『お客さん。
そこのラーメン屋は、遅くまでやってるから、
僕らの仲間内でも、ファンが結構いるんですよ。
いやぁ、こんな時間に親子で行かれるなんて、なかなか粋じゃないですか。』
饒舌な、そのタクシーの運転手は、
店に着くまでの間、ほぼ1人で話していた。
普段は無口で口下手な俺にとって、少々、わずらわしく感じたが、
ガラの悪い若者達に絡まれ、疲れ切っていたのと、
ユウの素直な心を、久しぶりに見れた事もあり、
今夜だけは、そんな小さな事にこだわるのは、よそうと思った。
店の前でタクシーを降りた俺達は、店内に入ると、
この時間帯からの予想に反し、数人の客が店内にいる事に少し安心してから適当に席に着き、
早速、ラーメンを注文する事にした。
『ユウ。ここの“にんにくもりもりラーメン”が美味いんだ。
別売りの“半熟煮玉子”を上に乗っけてもらう事も出来るんだぞ。』
『うん。俺もそれでいいや。』
俺が、よくここのラーメン屋に行く事を、ユウは当然知らないだろう。
『ギョーザも頼むか?!』
『‥‥うん。』
家と会社を往復するだけで毎日クタクタで、
家族サービスをする事もなく、休日はただ爆睡するのみだったからな。
『山田さん。
珍しいじゃないですか、こんな時間に。
そちらは息子さんですか?!』
湯切りの手つきも鮮やかに、店主が俺に話し掛ける。
『はい。急に、ここのラーメンが食べたくなったもので。
息子を誘って来たんです。』
『あら、そうでしたか。
お父さんに似て、男前だねぇ!!』
親子揃って、顔が腫れるほど殴られていたはずなのに、男前とは。
社交辞令だと分かっていたが、
思わず、ユウと顔を見合わせ笑ってしまった。
それほど広くはない店内には数人の客。
昼間は、いつも店主の奥さんが店を手伝っているのだが、
今日は姿が見えず、店主は、アルバイトと思われる若い男性と2人で店内業務をこなしていた。