二人の言葉に、ミルバの口元にようやく笑みが戻った。
「さっき『易々と信じるな』と言ったばかりで、申し訳ないんだけどね。だが私のことに関しては、何もかもが異例すぎる。君たちが信じてくれなかったら、私はまた、別の誰かを探しに行かねばならないところだった。」
ミルバはまた意味深なことを言う。美香はその、ミルバ自身のことについて色々と聞きたかったが、その時、すっと顔を天井へと向けたミルバの眉間が険しいのに気づいて、口をつぐんだ。
耕太は首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……まずいな。そろそろ動かないと、夜羽部隊の方から突撃してくる可能性がある。」
夜羽部隊、とは、あの黒装束の女たちのことを指しているのだろう。美香は頷くと、ひとまず立ち上がって二人を見下ろした。
「それじゃあ、話は後にしましょう。今はここを脱出して、夜羽部隊をまいた後にまたどこか落ち着いた場所で、」
「いや、それは無理だ。夜羽部隊をまくなんて、覇王にさえできるかどうか疑わしい。」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
美香同様に立ち上がった耕太を見上げながら、ミルバは事も無げに言った。
「私が囮になる。」
美香と耕太は驚いて目を大きくした。
ダメだと叫ぼうとしたところで、子供の小さな手のひらに制止をかけられ、二人は思わず黙る。
ミルバの表情は真剣そのものだった。
「いいから、よく聞いてほしい。私のことは心配する必要はない。だから君たちは、私が夜羽部隊の注意を惹き付けつつ館から離れたら、用心して外へ出て、その足でコルニア城へ向かってくれ。」
美香は困り果てた顔で頭を横に振った。
「でも、私たち道がよくわからないの。今は夜だし、余計に迷っちゃうわ。」
「大丈夫だ。私が案内してくれる。」
美香と耕太は怪訝そうに顔を見合わせた。言葉を誤ったのかと思ったが、子供は素知らぬ顔で平然としている。やはりミルバの発言は、奇妙で、よくわからない。
「……まるでお前がもう一人いるみたいな言い方だな。」
耕太がなんとかフォローを入れると、ミルバは至極あっさりと頷いた。
「そうだね。正確には五人いたけれど、今はたったの三人だ。その内の一人が、私というわけだ。」
「……。」
呆気に取られた美香たちは、もうなんと突っ込んだらいいのかわからなかった。