瓦礫の隙間から不自然な角度に曲がった人の腕が見えた。
鉄パイプを握り締めた左腕が痙攣する。
豆が割れて血が滲んだ掌がじくじくと痛み、傷口が擦れて少し痒かった。
目の前に横たわる体は男と女の二つ。
女の頭を三発、男の頭を二発殴ったが、年の為に男の肋骨を踏み付けて折っておく。
部屋の隅で蹲るユウジに向けて、私は微笑んだ。
「もう大丈夫だよユウジ。二人はわたしが殺しておいたから」
わたしの言葉に弾かれた様に立ち上がると、ユウジは私に詰め寄りシャツの首元を掴み上げた。
「なんなんだお前のその顔は! 僕にもこいつらを殺せって言うのか?!」
取り乱したユウジの言葉にわたしは動揺し、 締め上げる手をどうにか払い除けようとした。
「違うよユウジ! ここの人間はわたしが殺すから! わたしはユウジに生きていて欲しいの! ユウジが人を殺す必要なんてないんだから!」
ユウジの手がわたしの体を突き飛ばす。
反動でわたしの体はコンクリートの床に倒れこみ、鉄パイプがバウンドして罅割れた床の上を転がっていく。
「大体何だ? 何なんだよあぁっ?! 警察だ自衛隊だ、そんなのが全部喰われたんだぞ?! あの××××共に! それを何でお前がヤれんだよ! おかしいだろお前?! お前も××××か?! あぁっ?!」
錯乱した様子のユウジは、言葉を叫び散らしながら辺りに転がっている机や椅子を片っ端から蹴り付けていく。
金属がぶつかり合う嫌な音が部屋の中に響き、わたしは両耳を掌で塞いだ。
「もう止めてよ! 止めてよユウジ! あたしはユウジが好きなだけだよ! あたしはおかしくなんかないよ!」
「何が止めてだ!! お前のせいだろうが!! 全部お前のせいだろうが!! お前なんかとこんな所に来たから俺まで巻き込まれたんだぞ!! 死ね!! 俺の目の前で死んで詫びろこの」
ユウジはそれから喋らなくなった。
死んだ男が手にしていた錆びた鉈をユウジの首に振り下ろしたからだ。
ユウジの頭と体は互いに別の場所に転がっている。
気圧で押し出される噴水の水の様に首から血が噴出し、わたしの体や部屋の中に生臭い血がべっとりと貼り付いていた。
「あーあぁ……。またフられちゃった。あたしって男運ないなぁ」
わたしは死んだばかりのユウジの体をミュールの底で蹴り付けながら呟く。
わたしの片思いはこうして終わった。