綾菜に好きだと言えなかったことを今も後悔している。
綾菜と出会ったのは、綾菜が高校一年生の終わり頃だった。
俺は塾講師のバイトをしている。
ある日、綾菜というもうすぐ高校二年生になる子を担当してほしい、と塾長に言われた。
綾菜を初めてみた時の感想は、白くてぽっちゃりしていて餅みたい…という感じだった。
「先生ってよく駅前のRINAにいるよね。」
それが綾菜との初めての会話。
「えっ。ちょっ何で知ってんの。」
俺の慌てた様子がおかしかったのかくすくす笑って、
「バイトしてるから。彼女さん可愛いなーって思ってたけど最近来ないね。」
そうなのだ。
俺は高校の卒業式の日に彼女にフラれてから、RINAといういつも彼女と行っていた喫茶店に行かなくなったのだ。
「別れたし。」
そう言うと、綾菜はまずいと思ったのか
「あっごめんなさい。」
と謝ってきた。
「別にいいよ。引きずってないし。」
彼女には好きな人ができたと言われて別れた。
人の気持ちは変わるものだし、こうなったのも仕方がなかったと思う。
「終わったよ。」
数学のプリントをやっていた綾菜が白い手を伸ばして渡してきた。
元カノは指輪やら、マニキュアやら指や爪に色々施していたから、飾られていない女の子の手をみたのは久しぶりだったからか、少しどきどきした。
いや、もうこの時には綾菜に恋をしていたのかもしれない…
綾菜が急に塾をやめることになった。
二年生にあがるから、予備校に行くのだという。
最後の授業の日、
「少しの間ありがとうございました。」
と言ってくれた。
「RINAに行けば綾菜に会えるんでしょ。」
バイトはやめないと思っていたから、「うん」と返ってくると思っていた。
「バイトも辞めるよ。
国立大学目指してるから、バイトどころじゃないしね。」
その時初めて俺は綾菜が好きだと気付いた。
失いたくないと思ったのが遅すぎた。
今年大学一年生になった綾菜へ
憧れだった国立大学への進学は叶ったかな。
あの時からニ年たったのに、俺は今でも茶髪に巻き髪の子をみると綾菜かと思ってみちゃうよ。
また会える日を願って…