「晶!!」
医務室に、夕が息を切らしながら駆け込んできた。
「夕ちゃん、走っちゃ駄目じゃない…」
その福野の言葉が聞こえたのか聞こえていないのか、夕は言った。
「晶が…あの林に、いなかった…から、あたし、あたし…!!」
夕は ふらふらと、晶の眠るベッドの脇に座り込んだ。そのまま夕は泣いてしまった。
「死んじゃったのかと思ったよぉ…!!」
「夕ちゃん…」
(この子も優秀な医療班の一員。だけど…まだ15歳だもの…現状がつらくないはずが無いものね…)
福野は居たたまれなくなって、眉間に皺をよせた。
しばらく訪れた静寂の中で、ぼそりと荒い息遣いと声が聞こえた。
「…ぬ…かよ」
「え…?」
夕が袖で涙を拭いて顔を上げた。同時に、夕の白い髪の上に大きな手が乗る。
「んな、簡単に…死んで…たまっか…よ。は、はははッ…」
見ると、晶が夕の頭に手を乗せ、笑みを浮かべていた。
「脂汗かいてるくせに…よく言うわよッ」
夕は また涙ぐんで晶の手をどけた。
福野は晶の行動が晶の兄、晴一に似ていると感じた。
当時、強がりで意地っ張りで泣き虫だった晶にいつでも「大丈夫だ」と声をかけ、笑顔を見せていた晴一。
夕は晴一を知らない。
晶と夕は晴一の死後、晶が夕の家の近くに越したことによって知り合ったのだから。
夕は晶の優しさの根源を知らない。
今の晶 そのままの晴一の優しさを知らないから。