ミルバは二人の手を取ると、幼い子供がそうするように、ぎゅっと強く握り締めた。
「何はともあれ、今は君たちが無事に城へ辿り着くことが第一だ。決して無理をしてはいけないよ。いざとなったら、道案内を務める私を、見殺しにしてでも進んでほしい。」
美香も耕太も、何も答えることができなかった。未だに状況がよく掴めていない。ただ、自分たちの手を握り締めているこの子供は、本当に「普通の人間」なのだろうかというのが、ひたすら疑わしかった。
(ミルバの言っている言葉が全部本当だとしたら、この子はとんでもない力を持っているということになるわ。)
しかしそのミルバでさえ、舞子には破れたのだ。そして何らかの……よくわからない形で生き残り、今こうして、美香たちを助けてくれようとしている。
その時、不意に嫌なことに思い当たって、美香はさっと顔色を変えた。
耕太とミルバが見つめる中、美香は強ばった顔で言葉を紡いだ。
「……あなたは、舞子を倒して、もう一度支配者の立場に戻るために、私たちに手を貸してくれるの?」
助けてくれたことには感謝しているし、本当はこんな言い方はしたくない。しかし、今ここではっきりさせておかねばならない問題だというのも事実だった。
ミルバは気を悪くした様子も見せず、不安げな美香の手をさらに強く握り締めた。
「私は、支配者の座にこだわっているわけじゃない。ただ、“子供のセカイ”と“真セカイ”、その両方を守りたいと願っているだけだ。その為に必要ならば……舞子を消さなければならないかもしれないと、その覚悟はしているよ。」
美香は胸が締め付けられる思いだった。気づけば、すがるように子供の小さな手のひらを両手で包み込んで叫んでいた。
「お願い、舞子を殺さないで!私たちはそれが目的で“子供のセカイ”に来たんじゃないの。あの子の暴走を止めるため、あの子を“真セカイ”に連れ戻すために、やっとここまで辿り着いたのよ。あなたが舞子を殺すつもりなら、私たちはあなたと協力することはできない。ここで別れるしかないわ。」
ミルバはしばらく思案顔で黙ったままだった。耕太は思わぬ事態に口元を引き結び、美香は食い入るようにミルバを見つめている。
洋館の暗がりに嫌というほど沈黙が染み渡った時、やっとミルバは顔を上げた。
「……わかった。出来る限りの努力をしよう。」