十字路を右に曲がり切ろうとした直前にアイリは、とんでもないことに気がついた。
「しまった! 術指輪の効力が…」
(も、もしかして、宿題を手伝って貰った時のせいで、僕の精神を使ってしまったから…なのか?)
「どうやらそうみたいね…私もこんなに早く術指輪の効力が切れてしまうことを考えていなかったわ」
ヘレーナさんが、僕の首にかけた、あの時のペンダントによって、体のあらゆる能力が飛躍したはずだったが、まさかこんなに早く術指輪の効力が切れるとは、思ってもいなかった。アイリもおそらくは、術指輪の効力の時間を軽視していたに違いない。
(そ、そんなアイリどうすれば〜?)
体の感覚が僕自身のものに戻り、剣の重みが手にどっしりと伝わる。アイリは、こんなに重い剣を軽々しく使っていたのか。僕は、こんなに重い剣を持ってはいられなく、手から剣を離す。
「とりあえず走って!」
僕は小指にはめられた指輪からのアイリの指示に従い走る。
十字路を曲がった道の先には、茶色の髪をした、幼さが残った顔立ちの少女が立っていた。特徴的な赤縁の眼鏡をかけていた。
「あなたが、新しいハイアーですね??」
「はい! それよりディアーガはどうすれば…」
少女は、赤縁の眼鏡を小さな手でかけ直しながらディアーガ達の方を見つめ、頷いた。
「あのディアーガは、シャドーウルフといって、自分の幻を使うことが特徴です」
「つまりは、あの中に一匹だけ本物がいるということ?
「その通りです」
アイリが剣をふるったディアーガ達は、全て幻だったということか。しかし、術指輪の効力が切れた現在僕には何もできないし、戦うための武器もない。彼女に任せるしかないのだが、あの時、ヘレーナさんが言っていた彼女は戦いには向かないという言葉が脳裏に浮かんだ。
「私は、ディアーガの能力や行動を分析する力を持っています。それ以外は、何もできません。」
彼女は、申し訳なさそうに僕の背後に隠れる。
やはり、ヘレーナさんが言っていた通りだった。二人とも何もできないまずい状態に陥ってしまった。
僕は、この状況から自分はどうなっても構わないから、彼女だけでも、いつ襲いかかってくるかわからないディアーガから、守りたいただそれだけを思った。