囃子の言葉に宮垣先生がやっと反応した。
「『我が闘争』、その通り。囃子君、よく知ってましたね。」
「いや…僕、ヒトラーに少し興味あるんで、よく調べたりするだけです…」
囃子は謙虚にそう答えた。
「では囃子君には10PPあげましょうか。」
!
「みなさん、こういうふうに発言した生徒にはPPを与えるので、どんどん発言してくださいね、はい。」
これがこの学園の授業のやり方か。俺は答えを知っていたにも関わらずPPを得る機会を逃してしまった。そして、囃子という生徒に一歩遅れをとってしまった。
(しかしアイツ、ヒトラーに興味あるってずいぶん変わった奴だな。歴史オタクか?)
そう言うお前は一体なんなんだとツッコまれそうだが…まあ、稀なことには変わりないだろう。
その後もヒトラーの話も交え、宮垣先生はニーチェの話の続きを延々とし、授業は終了した。
「では、これで本日の授業は終わりですのでHR(ホームルーム)に移ります。」
宮垣先生は教室から出ることなく引き続きHRを始めた。
「では、後ろの人USBを回収して前によこしてください。」
その声でみんな各自のUSBを探し始め、後ろの席の人が順番に回収する。そして、40人全てのUSBが集められた。
「はい、では今日変動したPPを精算し、明日返却します。…後はプリントを数枚…」
その後、先生は数枚プリントを配り、今日のところはこれにて解散になった。先生が号令を終え、みんな一斉に帰ろうとする。俺は囃子の方を見るが、囃子は早々と帰っていた。
(…あいつ、一体なんだったんだ?)
自分でもわからない。面識もなく特に意識もしていなかった。だが、あいつには何か俺を惹き付けるものがあった。
「かい君、帰ろうか。」
怜の声ではっと我に帰る。隣には怜と霧島がいた。
「あ、ああ…」
俺はその場を取り繕うようにそう言い、教室を後にした。
下校の途中も囃子のことで頭がいっぱいになっていた。怜と霧島の話し声がまるで耳に入らない。
「かい君?」
「……ん?あっ、悪い…何?」
怜の声を認識するのに少し時間を要した。まずい、怜に不快感を与えてしまったか。
「いや、さっきから考え込んでるみたいだったからさ。ひょっとして囃子君のこと?」
怜は的確に核心をついた。怜にはお見通しだったようだ。