ネカイア公は震えたままの両手を前に伸ばし執務卓の縁を掴んでカタカタと言わせながら、
『それを君が知ってどうする積もりかね』
あからさまな怯えを両目に浮かべた。
『フーバー=エンジェルミ達に続いて君も私を脅す口かね』
『まさか』
リク=ウル=カルンダハラはやや呆れ気味に否定して見せ、
『棄てる神あれば何とやらで助けて差し上げたいと思っていますよ』
ここでようやくぬるくなったコーヒーを口に運んだ。
『助ける―助けるとは?』
公爵の眉間には不信と狼狽の深い皺が刻まれる。
少年総領事は一つ小さな咳払いをしてから答えた。
『その借財をですね、私達が肩代わりしましょう』
名誉元帥を今度はより重苦しい猜疑まみれの沈黙が支配した。
三分ばかり経ったであろうか、ようやく公爵はぎこちない口調で、
『私達とは?』
『当然共和国宙邦が、ですよ』
リクは胸を張って見せた。
『これからは我が国が新たな債権者ですから法外な利息だの無理難題に苦しむ事はもうないのです』
ネカイア公は目に鋭い光を湛えて眼球が飛び出る位に見開いた。
『それは本当の話なのかね?』
そしてそのまま執務卓の上に覆い被さるまでに身をこちらにせりだして、
『一体どうやって星間諸侯系のブラック金融共を黙らせた!?』
『蛇の道はなんとやらと申します―皆までは言えませんが、それは御同業の方々に一肌脱いでもらったとだけ説明しておきましょう』
星間諸侯と言えども一枚岩な訳ではない。
敵の敵は味方の論理で言えば、そう難しいからくりでもないのだ。
要はネカイア公国を貪り尽くそうとしていた連中を、より上位者に口を聞いてもらってご退去して頂いただけの話なのだ。
共和国元老院にはそれだけの宙際政治力もあれば人脈もあった。
『そうか』
リクの説明と平面ホロ画像のデータを何度も反芻して、ようやく納得したのか名誉元帥は呼吸を整えながら肘掛け椅子に座り直した。
『だが―これだけしてくれると言う事は、それ相応の見返りを求めてではないのかな?』
ネカイア公の心配が完全に消え去った訳ではない。
確かにただの人助け国助けで九000兆クレジット公貨もの膨大な負債を背負ってくれる程、共和国宙邦が慈善心に富んでいる筈がない。
『総領事殿、教えてくれ。一体何が望みなのだ?何が欲しくて我が国の危難を救う気になった?』