美香は、「ありがとう」と呟くと、わずかに目元を歪めた。悲しいという思いが、静かな泉のように胸を満たした。舞子を消したいと思っている人は、この“子供のセカイ”に何人いるのだろう?以前ジーナの砂漠にいた時と同じ思いが沸き上がり、胃がきゅうっと縮むような寂しさを感じた。
ミルバは二人の手を離すと、美香と耕太の間を通り、洋館の正面扉の前へと進み出た。
「それじゃあ、行こうか。わからないことは、すべて別の私に聞いてほしい。特に『頭』の役割を持つ私は、まだ力を多く残しているし、すべての私が見たもの、感じたものを正確に把握しているはずだから。」
「その『頭』のお前が、道案内をしてくれるのか?」
「いや、『頭』はコルニア城で君たちを待っている。正確には、覇王に捕らえられていると言った方がいいかな。君たちには、できることなら、その『頭』を解放してほしい。……まあ、詳しいことは道案内の私が教えてくれるよ。」
ミルバは最後に美香の方を振り返ると、ちらっと笑みを見せた。
「気に病むことはないよ、美香。きっと大丈夫だ。君がそれだけ舞子のことを助けたいと思っているなら、その想いは周りの仲間たちや、他人であった私にさえも伝わる。――舞子にも、きっと届くよ。」
美香が返事をする前に、ミルバはさっと扉を開け放ち、夜の中へ飛び出していった。
パタン、と扉が閉じ、再び洋館の中は静けさと闇に包まれた。美香も耕太もしゃべらず、ただじっと外の物音に耳をすませた。
キン、キン!と何かを弾く高い音が聞こえてきたのは、その直後だった。ヒュウッと風を切る音がこちらまで届いて、夜羽部隊が凄まじい勢いで上空から下降してきたのがわかる。音だけというのは、なかなか怖いものだった。どさっと重い音が聞こえるたびに、ミルバがやられたのではないかと、美香たちはびくびくした。しかし、人の体が倒れるような音はその後も何度か響き、それもなくなると、やがて外はすっかり静まり返った……。
「美香。」
「ええ。そろそろね。」
美香は扉に体を密着させ、ほんのわずかだけ扉を開き、外の様子を窺った。耕太は美香に言わなければいけないことがある、と感じたが、結局それは言葉にはならず、ただ幼馴染みの少女の真剣な横顔を眺めているしかなかった。