僕のご主人様は夜働きます。
車の付いたカゴを引っ張って、空き缶集めてです。
でも夜は暗いし、いつ悪い人が出てくるか分かりません。
だから僕もご主人様を護衛するために、一緒に行くんです。
もし悪い人が出てきたら、大声で吠えます。
これで逃げなければ、体当たりです。
それでもダメなら、僕の最終兵器を使うしかありません。
噛み付きです。
どんな事があっても、大切なご主人様には指一本触れさせません!
もっとも、今まで悪い人が出てきた事は一回もありませんけど。
そして、カゴが空き缶で一杯になったら、今夜のお仕事はおしまいです。
お家に帰ったら寝る前に、僕が一日で一番楽しみにしている時間が始まります。
ご主人が僕に、お話を聞かせてくれるんです。ご主人様はすごく沢山のお話を知っていて、楽しいお話や悲しいお話、時には不思議なお話も、それを毎晩寝る前にひとつづつ僕に聞かせてくれます。
「さぁ、ワンちゃん。
今夜も私の話を、聞いてくれますか?」
僕はご主人様の前にちゃんとお座りをして、小さくワンと鳴きます。もちろんですとも、ご主人様!
早く聞かせてください。「そうねぇ、今夜はどんな話をしようかしら…そうそう、今夜はとっても大きな悩みを抱えたロボットさんのお話でもしましょうか。
では、始まり始まり。
昔々ある岬の突端に、金属でできた、見上げるほど巨大な塔がありました。
そしてその塔には、一人のロボットさんが住んでおりました…
第一話
悩めるロボットの物語
地上124階・地下38階。
その巨大な塔は、岬の突端付近にそびえ立っていた。
太陽光に眩いほど輝くその塔には入り口も窓もなく、ただ最上階に展望スペースのようなものがあるだけだった。塔の中には、たった一台のヒューマノイド型のロボットが動き回っているだけであった。
彼がこの塔の管理人であり、そしてまた世界の管理人でもあった。
塔の内部は、各階とも幾つかの部屋に区分されていて、どの部屋の壁にも多くのメーター類と複数のモニターが設置されていた。
そのメーターとモニターは、世界中にくまなく設置された無数のセンサー付きカメラと繋がっていて、映像のみならずありとあらゆる世界中のデーターが、その塔に送信され集められた。
データーは地上からだけでなく、深海からもまた宇宙からも集められた。