「よっ、早いじゃん」
あの林のあの場所周辺を訪れると、水鶴が圭を従えて立っていた。
晶は にこやかな笑みを浮かべ、手を挙げた。
圭は晶をギロリと睨んだ。見知らぬ客に威嚇をする番犬のように。
水鶴は「あぁ」と小さく返事をするのみだった。
三人とも雨に濡れ、髪の先や指先などから雨粒を滴らせていた。
水鶴が口を開いた。
「安心しろ。柊はお前に手を出さない。たとえ私が死のうとな…」
水鶴が ちらと圭に目をやると、今まで殺気を放っていた圭は 嘘のようにペコリと水鶴に頭を下げた。
「どっちかが死ぬまで…やりあうのかよ?」
晶が苦々しい表情で尋ねると、水鶴は「当たり前だろう」と答えた。
「敵同士殺しあいをしないなどは甘い考えだ」
フンと鼻をならして水鶴が そう言うと、晶は雨に濡れて鬱陶しくなった前髪をかき上げて言った。
「…ハッ、甘くて結構!俺は他人を殺すのが嫌いだからな」
「流石は自神宗陣内で有名な優男だな、晶」
右の横髪を耳にかけ、水鶴は言った。
「ヤサオトコだぁ?」
片眉を上げて晶が聞き返す。すると水鶴の代わりに圭が口を開く。
「自神の兵で
お前に遭遇した者は
皆生きて帰ってき…た。
どんな傷を
負っていて…も…。
…とんだ優男…だな。
俺たちには
いい迷惑…だ…。
そいつらはお前を恐れて
戦わなく
なるのだから…な」
圭は忌々しげに舌打ちをする。彼は晶や水鶴のように髪をどけることはなく、長い前髪の隙間から晶を睨んでいた。
「そんなら戦わなきゃいいじゃん?」
晶は平然とそう言ってのけた。
「俺は この戦いをさっさと終わってほしいって思ってるしな」
――キィンッ!!
晶の言った直後、鋭い金属音が辺りに響いた。
水鶴が晶に斬りかかり、晶がその剣を己の剣で受け止めたのだ。
「無想だな…晶」
「あァ…?」