小高い丘にポツリと岩がある。
何の変哲もない普通の岩。
大きさも、成人男性位で大きくない。
なのに、岩の前にはしめ繩が絞められ、神として奉られている。
参拝に訪れる人も居るし、別に変な、いわく付きでもない。
なのに、そこに住む年配者達は口を揃えて言う。
『あの岩には絶対に触るな』
理由は分からない。
けど触ってはいけないと、小さな頃から聞かされてきた者は誰一人、この教えを破る者はいなかった。
ある日、この岩の噂を聞き付け見物に来た若者がいた。
この若者は、オカルト的な物が大好きで各地を巡っているマニアだった。
例の如く、その村に着くと年配者に岩には触るなと注意を受けた。
触る気は無い。若者はその岩がどんな物か見たかっただけだった。
穏やかな丘を登りきると、その岩はあった。
噂を聞き期待に胸を膨らませていた若者だったが、余りの変哲のなさに気がぬけた。
何時間もかけて来たというのに、これじゃあ時間の無駄じゃないか。
若者はトボトボと岩へ近寄った。
本当に何の変哲も…
若者は近寄ったと同時に違和感を覚えた。
そして、周りに人が居ない事を確認すると岩に触れた。
小さく岩に開いた穴。小さく入ったひび割れ。
若者が少し力を入れると、パラパラと岩が崩れ落ちた。
若者は唖然とした。
「これは…じゃあこの村の人達は…」
『触れてはいけないと言ったのに』
低い声に若者が驚くと、そこには険しい顔をした老婆が立っていた。
若者は言い知れぬ恐怖に怯えた。
それから若者がどうなったのかは分からない。
しかし、丘の上には何故か岩が一つ増え、二つ奉られているそうだ。
終わり