僕とご主人様の物語7

矢口 沙緒  2010-04-11投稿
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今夜も僕とご主人様は、いつものように空き缶集めのお仕事を済ませて、お家に帰ってきました。
僕は夜道を歩きながら、今夜はどんなお話を聞かせてくれるのか楽しみでした。
「さっき公園で、若い男の人と女の人が、ベンチで仲良くお話してたわね。
きっとあの二人は、恋人同士なのね。
そうだわ、今夜は忘れられた恋人達のお話をしましょう。
これはね、ある男の人が体験した、とっても不思議なお話なのよ。
じゃ、始めますよ。
昔々ある所に、5年ぶりに故郷に帰ってきた男の人がおりました…


第三話
忘れられた恋人達の物語


早朝の小さな駅の改札を抜けて、人気のない駅前のロータリーまで出ると、彼は大きく深呼吸をした。
そして、ゆっくりと周りを見渡す。
5年前にこの町を出た時のまま、まったく変わっていない。
駅舎も、右手に見えるうっそうと茂った山も、左の林の隙間から見える海も、その海に向かってゆっくりと下るこの一本道も、そしてまるで薄い緑の色が付いたような爽やか空気も。
何もかもが変わらないまま、故郷は彼を向かい入れてくれた。
彼は高校を卒業するとこの町を離れ、都会の大学に行った。
そして大学卒業後すぐに就職。
一年が経ち、やっと落ち着いてきたところで、ちょっとまとまった休みが取れた。
気が付けば5年も実家に帰っていなかったので、この休みを利用して彼は故郷に帰ってきた。
3月に入ったばかりなので、まだかなり寒い。
この海沿いの一本道を行くと海岸近くに小さな喫茶店があり、その喫茶店を過ぎてしばらく行くと、バス停がある。
そのバス停には、雨に濡れないようにと、簡単な屋根の付いたベンチが設置されている。
そのバス停を過ぎると、すぐに彼の実家がある。
バスで行けば一駅だが、歩いても20分位で行ける。
ちょっと早く着き過ぎたし、周りの風景も懐かしいし、そんな理由で、彼は実家まで歩く事に決めた。
彼が歩き始めようとした時、後ろから突然声を掛けられた。
「お久しぶりです」
彼が振り向くと、そこには見知らぬ25、6才と思われる男性が立っていた。
いや、ちょっと待て!
見知らぬと思ったが、なんかこの人、見覚えがあるような、ないような…
「僕ですよ、加島勇一ですよ」
かしま…ゆういち…?
なぜかその名前も、聞き覚えがあるような、ないような…
「あれ?忘れたんじゃないでしょうね、僕の事」



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