僕とご主人様の物語8

矢口 沙緒  2010-04-11投稿
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「い、いや
忘れた訳じゃないんだけど、思い出せなくって…」
同じ事だ。
しかしこの人、この寒いのに、なぜ半袖?
「ちょっと、しっかりしてくださいよ。
あなただけが、僕と彼女の運命を決められるんですから」
「運命を決められる?
…どういう事?」
「そりゃあね。
もし不幸な結末が待っていても、たとえハッピーエンドにならなくても、僕はそれを受け入れる覚悟はありますよ。
でもねぇ、忘れたっていうんじゃ困るんですよ。
たとえ世間様は許しても、この僕が許しませんよ!」
「いや、そう言われても、なんの事やら…」
「じゃ、ヒント!
これは何でしょう?」
そう言って、彼は握っていた手を広げて見せた。
その手のひらには、小さな指輪が乗っていた。
しかし、普通の指輪ではない。
本来石があるべき箇所に、極小さい白と茶色の巻き貝が付いている。
「ほら、思い出した!」
「全然」
相変わらず、さっぱり分からない。
確かにこの特徴的な指輪にも、見覚えがあるような気はするのだが…
彼はすごくガッカリした表情で、この上なく落ち込んだトーンの声でこう言った。
「この思い出の貝殻の付いた指輪を持って、この先の喫茶店で待っいる彼女の所に行って、これからプロポーズしようとしてるのに…それを、忘れるなんて…」
しかも、ちょっと涙声だし。
「じゃ、この先の喫茶店で、あなたの彼女が待ってるんですか?」
そう言って下り坂を見てから振り返ると、そこにはもう、彼の姿はなかった。
あれ?
どこ行ったんだろう?
きょろきょろと見渡したが見当たらない。
仕方がないので、予定通り歩いて実家に向かう事にした。
途中、彼の言っていた喫茶店『ポエムっち』がある。
ここもちっとも変わらない。
しかし、この喫茶店の名前だけは、昔から意味が分からない。
気になって『ポエムっち』の近くまで行ってみた。
早朝なので、店はまだオープンしていない。
彼が言うには、ここで彼女とやらが待っているはずだが、誰もいない。
するとまた、後ろから声を掛けられた。
「ご無沙汰〜
元気してた」
振り向くと、さっきの彼と同じ位の年齢の女性が立っている。
しかも、同じなのは年齢だけではない。
なぜ彼女も半袖?
「私、彼と幸せになりたいの。
よろしく、ねっ!」
「いや、よろしくも何も、君一体誰?」

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