私は結局、打つ手を考えあぐね、何もできないままでいた。
かれこれ3週間、今関との関係は一切進展しなかった。例のウジウジ、考える癖が出たのだ。
毎日迎えに来る今関を侮蔑の目で見ながら、それを甘受し続けた。
もちろん奴とは話さない。帰り道で話し掛けられても全く返答しなかった。
しかし、甘受する一方、私の心中は穏やかでなかった。数メートル後ろの今関がどんな顔をしているかは知らないが、内心『許してもらえた! 』と思っているに違いなかった。
さもなくば、毎日迎えに来るはずはないからだ。そう考えるとイライラした。だからといってそれを今関にぶつけると、案外に聡(さと)い今関は私の心の隙に入り込むだろうことは目に見えていた。
毎日、今関の前を歩き、家に帰る。お礼は言わない。しかし、その代わりに復讐劇は止み沙汰になった。
その日も今関の前を歩いて帰っていた。木枯らしに吹かれて、落ち葉が路面へと広がっていた。
私はその落ち葉が風圧で揺れるくらいの速度で歩いた。今関もすぐ後ろを遅れまいと付いてきていた。
私が異変に気付いたのは今関が10メートル以上離れた所で声を挙げた時だった。普段ならこれ程距離が開くことはなかったからだ。
不信に思って振り返ると、今関が男の腕を掴んでいた。何やら口論になっているらしい。
よく目を凝らすと、口論の相手が判った。以前に後を付けられたストーカーだったのだ。
今関「何故付いてくるんですか? 」
ストーカー「お前に関係あるのかよ? 」
今関「私は彼女の付き添いをしてるんです」
ストーカー「だから何なんだよ」
今関「彼女、あなたのせいで怖い想いをしてるんですよ」
ストーカー「お前にゃあ関係ないだろうが!」
言うに事欠いたストーカーは今関に掴み掛かかり、それをきっかけに男二人が取っ組み合いを始めた。
私はそのドラマみたいな光景を呆然と見ていた。ただ、ドラマと違うのは二人が変態だということだけだ。
『私は変態にモテる! 』
そう考えると急に喉元に何かがこみ上げた。もちろん熱い想いなどではないのは確かだ。
そう、二人の変態の余りに滑稽な争いに肩を震わせ、私は笑っていた。
変態は争い、私は笑う。
キックは今日も私を待っている。
(完)
最後まで読んで下さった方々に謝意を!