「…っ!嘘でしょ!?」
「どうした?」
美香はゆっくりと扉を開けた。そこに広がる光景を見て、耕太は絶句してしまった。
夜闇の中、月光が照らす洋館の前庭にオブジェのように転がっているのは、夜羽部隊の女たちだった。
二人は恐る恐る洋館から足を踏み出し、倒れ伏す女たちを見渡した。――七、八人はいるだろうか。美香は戦慄を覚えずにはいられなかった。ミルバはあの短時間で、一人でも恐ろしく強い戦闘集団の女をこれだけ多く倒したのだ。耕太はわずかに顔を歪めながら、一人の女に近寄っていった。美香は珍しく、耕太の背中に隠れるような形で、後に続く。
仰向けに倒れた女の瞳は、虚ろに見開かれていた。血はほとんど出ておらず、鼻をつく臭いもない。耕太は用心深くしゃがみこむと、女の体に目を走らせた。女の黒い衣装に紛れて、唯一、赤黒い血が薄い胸の真ん中辺りににじんでいるのを確認し、眉を寄せる。
「心臓を一突きだ。」
耕太はそう呟いて立ち上がると、なんともいえない表情で美香を振り返った。美香の視線は女に釘付けになったまま、動かなかった。
「……ミルバは、とても強いのね。」
乾いた喉からようやく声を絞り出して、そんな言葉しか出てこなかった。
耕太はうつむきがちに答えた。
「まあ、強いことは知ってたんだけど、これほどとは思わなかったな。……あいつ、これだけのことを、躊躇いも容赦もなしにやったのかな?」
「……。」
だとしたら、とても恐ろしいことだった。女たちがまさしくそのように戦うというのに、それに応ずるミルバまでが慈悲の心を持たないとしたら、ただ沈黙と死だけが満ちた争いだったに違いない。
様々な体勢で横たわる女たちの姿を目に映しながら、美香は舞子のことを想った。彼女たちは皆、舞子の想像物のはずである。女たちの「歪み」は、ずっと舞子の想像物と戦ってきた美香にとってあまりに馴染みの深いものだった。
今回は想像物だけですんだが、次はわからない。ミルバはそうするしか仕方ないなら、舞子を消すと言っていた。
(私が舞子を止めなきゃいけない。舞子を守るためにも……。)
汗ばんできた手のひらをぎゅっと握り締め、美香は決意を新たにした。
耕太は鉄格子の門扉の方を振り返り、声を上げた。そちらを見ると、そこには先程と何ら変わりのない様子のミルバが立っていた。