忘れない幸せ 後編

萩原実衣  2010-04-14投稿
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良いことが起こると、ちょっとだけ不安が生まれる。
これ以上ない幸せを感じた時、同じくらい失いたくない怖さが付きまとう。

激しく心を突き動かした愛を忘れる事なんてないと…

思ってた。

大翔に告白された瞬間全ての神に感謝したい気持ちだった。

私には、『年上』という不安が同時によぎった。
でも、今は…大翔に飛び込んでみようと思った。それから、私は、幸せだった。

悪くない。

しかし、この頃 年のせいなのか…働き過ぎか…?片頭痛が酷い。
物忘れも多く、若くない実感と自己嫌悪におちいる。

これがなければ…。

パラダイス!!

とりあえず、病院に行く事にした。
有給休暇も残っていたので、検査をしてもらった。
MRIも撮った。

3日後、検査結果がでた。

地獄に落ちた…。

『脳腫瘍』だって。
それも、脳の血管や神経を圧迫しているらしい。それが物忘れの原因のようだ。
手術は…不可能らしい。
「先生、これから、どうなるの?」
「どんどん、色んな事を覚えられなくなったり、忘れていくと思われます。」

残酷な告知だ!!

これなら、いっそ直ぐに死んでしまったほうが楽だ!!と思った。
大翔に告げるか…?

告げずに彼を覚えられなくなるなら…別れを選択するべきか…?

苦しい。

大翔の側にもっともっといたい。でも、彼を忘れていく事に耐えられるだろうか…。

「検査結果出たんだろ?」
「あっ、うん…。大翔…。」

涙が溢れて止まらなかった。
私は、全てを告げた。
大翔は、頭を抱えてしばらくうつ向いていた。

「美里。これからの時間全てを記録しよう。思い出にするんじゃない。記録だ…。」

それから、毎日の細かな出来事も大翔は、写真を撮りメモをつけ記録をとり続けてくれた。

次第に私は、覚えられなくなった。
仕事もやめて、大翔との時間を大切にした。

「ゴメンね。一生懸命忘れないように大翔の顔と名前を繰り返し言い続けるから…」


そして…私の側には、若い男性が優しく側にいてくれる。
「すみません。お名前教えて頂けます?」

「神崎大翔と言います」
私のタイプだった。

美里の日記は、ここで終わった。
俺は、美里の日記に救われた。
そして…美里に捧げる。
もう…忘れてしまう恐怖を感じなくて良いんだよ。ゆっくり…おやすみ。君がいなくなった今、君の記憶の分まで俺は…
忘れない。



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