「神山がピッチャー!?」
ベンチにいる誰もが驚きの声を上げた。
「なぜ神山をピッチャーに?」平田コーチが鈴木監督に問い質した。
「神山は肩が強いですし、毎日私らに隠れてピッチングをやってますから。試してみても良いと思いまして」鈴木監督は怒りを押し殺して言った。
「プレイ!!」
主審がそう告げると、神山はマウンドで深呼吸をする。ノーアウト、ランナー満塁0対6。
神山はセットポジションから足を上げ、背中と腕を鞭のようにしならせながら投げる球は空気を切り裂きながらホームベースの前でバウンドし、武司のミットにおさまる。
「あぶねぇ〜」
横田が、まるで自分が投げているような気持ちで声を漏らした。
2球目は大きく上に外れたが武司のミットがボールを捕える。
3球目は少し上に外れたが、バッターが手を出しキャッチャーフライに終わった。その後も次々に打ち取っていく。
「シュート?」
鈴木監督は独り言のようにつぶやいた。
光が右打者に対してシュートを投げているのに気付いたのだ。監督はわずかなボールの変化も見逃さなかった。
光は最終回まで投げ、被安打3、失点0。
「あざしたぁ!!」
メンバーが挨拶を終え、監督のもとに集まり。今日の反省点をまとめた。
生徒が帰った後、職員室では平田コーチと鈴木監督が話し合っていた。
「神山はいいものを持ってますね」
コーチは嬉しそうに言った。
「あの球速でシュートはかなりの武器になりますよ!明日から練習を投手用の別メニューに変えるつもりです」監督は試合での怒りを忘れ、とても上機嫌だ。
その目からは期待の色がうかがえた。