光「今日は楽しかったな」
慶「ああ、そうやな」
薄暗い空の下、二人は並んで帰っていた。
慶「そのぬいぐるみ…どうしたん?」
光「え?ああ…これは…」
「光希ちゃん?」
突然名を呼ばれ光希も慶太郎も振り返った。
慶「…?」
光「え?…あ…!」
「やっぱり光希ちゃんね?」
きっちりまとめた黒髪のすらっとした高身長の女性が光希の両手を握り嬉しそうに笑った。
光「…先生…」
「久しぶりね。最後に会ったのはいつだったかしら…どう?最近は…?」
光「…」
黙ってうつ向く光希に女性の表情が曇った
「…そう。…あ、そうだ!今ね、このお手伝いをさせてもらってて、それでこっちに戻ってきたの」
鞄からチケットらしき物を取り出し手渡した。
光「これは…」
「ピアニストの黒田先生のコンサート。あなたも知ってるでしょ?今度、こっちでやることが決まったから、良かったらいらっしゃい」
光「でも…」
「お願い。きっと聞いて無駄にはならないと思うの。私ね、やっぱりもったいないと思うのよ、あなたのピアノ。…まだ辞めるべきではないと思うわ」
光「…」
「とにかく、これはあなたに渡すから、ね?…あぁ…もう行かないと」