「水鶴様、もう平気で…す。戦え…ます」
圭の言葉に、今まで呆けていた皆神の兵が身構えた。
「本当にか?」
水鶴が念を押して聞く。
「はい。…ただ――」
「何だ?」
「俺を残し…て、ここから離れていただけません…か…?」
「…!!」
水鶴は圭の胸中を察した。これだけ出血が酷いのだ。陣に連れ帰ったとしても、圭が助かる確率は非常に低い。
しかし…
「…駄目だ!!」
水鶴は首を盾には振らなかった。
「水鶴様、俺は…もう」
「言うな言うな!!ふざけるなよ!勝手に死ぬのは許さんぞ!!」
口調こそ強いものの、圭に すがるようにして言う姿は、ただの年相応の少女のようだった。
「どうして…」
そんな水鶴を見ながら、晶は そうこぼした。
「人を失う苦しみがお前にもあるなら、どうして…どうして人を簡単に殺せるんだ!?」
「……!!」
晶の問いに、水鶴は答えなかった。その代わりに、圭が口を開いた。
「黙…れ…!!」
ごほッと圭が咳を一つすると、多量の血が同時に吐かれた。
「げほっ…お前、に…ッ、お前に水鶴様の何がわか…る…!?」
息は荒く、どこからどう見ても死にかけの圭。
「水鶴様、行ってくださ…い」
「柊…私に命令する気か…?」
「申し訳ありませ…ん。しかし、お願いいたし…ます…ゴホッ」
圭は意思の強い目で水鶴を見る。
「…お前がいなかったら…私は、私は…!!」
「水鶴様…」
圭は、ゆっくり 諭すように言う。
「俺は…
この左手が鎌で良かったと思っていま…す。
だから…
この左手であなた様を護らせてくだ…さい。
あなた様が無事ならば…俺は幸せなんで…す」
「左手…」
「さぁ、水鶴…様」
圭は水鶴の背を優しく押した。
「あなた様に仕える事ができて…本当に良かったで…す。ありがとうございま…した、水鶴様」
振り返った水鶴に、圭は笑いかけた。
優しい笑みだった。
「柊…ありがとう、ありがとう…!!」
水鶴は頷き、走り去っていった。