――2年前
『光希…もう日本に帰ってきたのか?』
隆一が扉を開けると真っ暗な部屋。その中心で膝を抱えて震える妹に声をかけた。
『………おに…ちゃん……』
『…ん?』
『私、やりたいって言って…ピアノ、始めたの…自分で…やりたい…って…ゆったの』
『…あぁ、そうやったな』
『なの…に……何で…なん…?……何で…い…ま……ぴあ…の………やりたい…って…思われへんの……?』――
隆「……」
カウンターで一人、暇そうに雑誌を眺めていた隆一は、入口の扉が開く音に顔を上げた。
隆「あかんなー。高校生はもう出歩いちゃあかん時間やで?」
にやりと笑う隆一を無視して慶太郎はいつもの長足の椅子に腰かけた。
隆「ここは喫茶店じゃないで?」
慶「…光希に話、聞いた」
隆「…そうか」
慶「あいつは強がりや」
隆「…強がり?」
慶太郎がゆっくり頷いた
慶「“たいしたことじゃない”“ちょっと嫌になっただけ”とでもいいたいみたいに…素直に言っときながら、素直じゃない。…自分の弱さ、自分で見せといて、誰にも弱いって言わせんようにしてる。自分の弱点を自分で笑うあいつは、強がりや」