ミルバは無傷だった。それどころか、髪の毛一本さえ乱すこともなく、ゆったりと体の後ろで腕を組み、泰然と構えている。
無事な姿に喜んで駆け寄ろうとした美香たちは、次にミルバが放った言葉に、思わず体を固くして立ち止まってしまった。
「やあ、初めまして。君たちがもう一人の私が言っていた、『希望の』光の子供たちかな?」
ミルバはそう言って、先程よりさらに優雅に――それこそ、嫌味なくらい優雅に微笑んだ。
その場でたたらを踏んだ耕太は、動揺に目を大きくして呟いた。
「お前、さっきのミルバじゃないのか……?」
「違うよ。聞いてなかったかな?私は君たちをコルニア城へ案内するために、ここへ送り出されたんだ。君たちからすれば、所謂、『二人目のミルバ』ってところかな?」
美香と耕太は思わず顔を見合わせた。二人とも話を聞いていなかったわけではないが、未だに信じることができなかったのだ。それほど、今目の前に立つミルバは、先程言葉を交わしたミルバと、瓜二つの姿をしていた。
まさに得体の知れない存在だった。美香は少し恐ろしかったが、耕太より先に、そろそろとミルバの方に近寄った。
「さっきのミルバは、夜羽部隊を引きつけて、どこか遠くへ逃げたの?」
「ああ。と言っても、逃げきれるものかどうかは、運次第だけどね。まあ君たちが一緒にいるよりは、格段に生き延びられる率は高くなるだろうけど。」
美香は、肩をすくめてみせるミルバの態度に、戸惑った。さっきとは明らかに雰囲気が違う。人を見下したような話し方は、穏和な笑みを浮かべていたミルバには似つかわしくなかった。
「お前、双子なのか?」
「馬鹿なことを言ってないで、さっさと行こう。誰が見ているとも限らない。」
もう一人のミルバは、耕太の発言をばっさりと切り捨てると、身を翻してさっさと歩き始めた。耕太は調子が狂ったように頭をがしがしとかきむしっていたが、美香がその腕を引いてミルバに続いて歩き出すと、引かれるがままに大人しくついて来た。
先頭にミルバ、後ろに二人が並ぶ形で、三人は鉄格子の門を抜け、長いこと留まっていた洋館の敷地からついに離れた。ラディスパークの下町の通りに出ると、ミルバはすぐ傍の二階建ての建物の角を左に曲がった。