竹本のあとについて光希と慶太郎は長い廊下を歩き黒田の控室にたどり着いた。
竹本が扉をノックすると
「どうぞ」
という穏やかな低い声が聞こえた
竹「連れてきました。」
竹本が光希と慶太郎を紹介し、二人はそれぞれ頭を下げた
黒「すまなかったね。一度会ってみたいと思ってね。君の噂はよく聞いていたから」
黒田はステージ上のきっちりしたイメージとは違い、初老の紳士的な男性であった。穏やかな表情で光希に微笑みかけた。
黒「君が今は活動“休止”中ということも聞いてるよ。」
光「…」
黒「だが…今日は君の演奏を聞いてみたいんだ」
光「え…」
光希は不安げな表情で竹本を振り返った。
竹「大丈夫よ、光希ちゃん。せっかくだから、聞いて頂きましょうよ、ね?」
光「…」
そのまま竹本の隣に立つ慶太郎に視線を移したが、慶太郎はいつも通りの無表情で光希を見つめ返した
黒「不安…かな?」
光「…上手く……弾けるかどうか…」
黒「上手く弾くことなんかしなくていいよ。僕はね、ただ君がどんな演奏をするのか聞きたいだけなんだ」
光「…」
黒「ステージのピアノはまだ使用可能かな?」
竹「ええ、大丈夫だと思います」