「え…?」
水鶴は、音をたてて目の前に転がったものを、ポカンと見ていた。
そこにあるのは、剣。
「理一さん!?」
菊乃が二・三歩後退して、叫ぶ。
「え?え?母上を、その剣で…?」
水鶴はオロオロして言っていると、兵のうちの一人が理一の前に出た。
「きょっ、教祖様!!奥方様を水鶴様に殺させるとは何をお考えですか!?」
「…私に逆らうか?」
理一が不敵な笑みを浮かべると、その兵の首がゴロリと落ちた。
「――ッ!?」
水鶴が口を手で覆って後ずさった。
兵の首を斬ったのは、東吾だった。
「申し訳ありません教祖様。続けて下さいませ」
東吾は そう言うと、死体と首を持って去っていった。
「さぁ水鶴、やってみなさい」
「…!!」
水鶴は、理一と菊乃を交互に見やった。
「わ、私…!!」
「うん?」
「私にはできません…!!母上を、殺せません…」
水鶴は涙目で言った。
理一にここまで恐怖を抱いたことの無かった水鶴は、ガタガタと震えていた。
「そうか…『駄目な子』だな、水鶴」
理一は水鶴の前に ゆらりと立った。
「理一さんッやめて!!」
菊乃が理一に叫ぶ。
「殺しは せんさ…。嘘つきには罰が必要だろう」
――バキッ!!
生々しい音が辺りに響く。菊乃は思わず目を瞑った。
「…!!」
理一は目を丸くした。
殴られ、口の端から血を流しているのは娘ではなく、圭だったからだ。