黒「とても…いいものを聞かせてもらった」
演奏が終わると黒田はまた穏やかに微笑んで見せた。しかし、すぐに口を閉じ、何か考え始めた。
光希の心臓がまた不安げに高鳴る
黒「…私は数ヶ月後、またヨーロッパに戻らなくてはならない。…それで…どうだろう?私と一緒にあっちへ来ないかい、光希?」
光「え…?」
黒「君のピアノはもっと成長していくだろう。私は、君のピアノがもっと聞きたくなった。だから、私とともに来ないか?もちろん、返事はいますぐでなくていい。君の未来に関わることだからよく考えてくれたらいい」
光「…は…い…」
慶太郎は相変わらず客席で立ってその様子を眺めていた。そんな彼に黒田が声をかけた。
黒「それから、慶太郎君だったね。…君も音楽の道を目指しているのかな?」
慶「はい」
黒「この道は厳しい。壁に当たる度に思うよ。神は諦めろと言っているんじゃないかとね。そうやってそこで辞めていった人間を何人も見た。だが、そこを越えた者は夢を掴むんだ。いいかい、神は諦めろなんてことは言わない。この者がこの夢を掴むのにふさわしいかテストしているのだよ。だから、諦めることだけはするな。試されてると思いなさ。」